背の高いプリントで層の剥離やひび割れが起こる原因は何か?


3Dプリントでよくある問題のひとつに、高さのあるオブジェクトに横方向のひび割れが生じ、時には完全に割れてしまうことがあります。この失敗は「レイヤー分離」または「デラミネーション」と呼ばれ、印刷された層同士が適切に接着できないと発生します。背の高いモデルは、下部の冷えた層と上部で新しく押し出される高温の層との間に大きな温度差があるため、この問題に特に弱いのです。本ガイドでは、この問題の原因を説明し、それを防ぐための明確な解決策を紹介します。

冷却がプリントを割る力を生む仕組み
背の高いプリントが割れる唯一の理由は、プラスチックが冷えると収縮するからです。この収縮作用がプリント内部に強力な上向きの引っ張り力を生み出します。以下で紹介する解決策は、すべてこの力を管理する方法にすぎません。
破壊的な力(内部応力)がどのように蓄積されるかを直接見てみましょう:
プリントの底部の最初の層は冷えて収縮します。その後、上に積み重ねられる新しい高温の層も同様に冷えて収縮します。しかし収縮するとき、それはすでに固まっている下層を上に引っ張ります。プリントが高くなるにつれて、この上向きの力は層ごとに積み重なり、非常に強力になります。
その結果、プリント内部では常に綱引きが起きています。すなわち、層を引き離そうとする内部応力と、それをつなぎとめる層間接着(「溶着」)の力です。引っ張る力が勝った瞬間にひび割れが生じます。
したがって問題は明確です。ひび割れを防ぐには、天秤を自分に有利に傾ける必要があります。つまり、内部応力を減らすか、層間接着を強めるかのいずれかを行う必要があります。次のセクションでは、このバランスを崩す一般的な誤りと、その具体的な解決方法を説明します。
原因#1: すきま風や冷気でプリントが急冷されている
これは背の高いプリントでレイヤー分離が起こる最も一般的な理由です。プリンターの周囲の空気が冷たすぎたり、風が通り抜けたりすると、モデルを引き裂く内部応力が大幅に増加します。
なぜ急冷が内部応力を生むのか
部屋の温度が一定でないと、各新しい層が急速に冷却されます。この急冷は収縮量を最大化し、それにより内部の引っ張り力も最大化します。この現象こそが、ABSのように収縮が大きい材料が、屋外やオープンな環境ではほとんど成功せずにプリントできない理由です。冷たい環境はまさにレイヤー分離を引き起こす条件を作り出します。
この問題を見分ける方法
以下のような兆候がある場合、冷えた環境が主な原因だとほぼ断定できます:
- プリント中に突然ひび割れが生じる。
- 層が剥がれる際に「パキッ」と音がすることがある。
- 寒い部屋や窓・ドア・エアコンの吹き出し口の近くに置いたときに特に悪化する。
最良の解決策: エンクロージャーを使用する
圧倒的に効果的なのは、プリンターをエンクロージャー内に設置することです。エンクロージャーはヒートベッドから発生する熱を閉じ込め、モデルの周囲に安定した暖かい空気の層を作ります。この高められた環境温度がプリント全体を暖かく保ち、上下の温度差を最小化します。これにより内部収縮力が大幅に減少し、層同士が強く融合したまま保たれます。そのためには、現在のプリンターにカバーを追加するか、最初から一体型エンクロージャーを備えたプリンター(例:QIDI TECHのプリンター)を選ぶのがおすすめです。

原因#2: パーツ冷却ファンが強すぎる
パーツ冷却ファンはシャープなディテールや綺麗なオーバーハングを実現するために不可欠ですが、風量が強すぎると層同士の接着が著しく弱まり、ひび割れにつながります。これは、ファンが層を適切に溶着するのを妨げるためです。
なぜ過剰な冷却がひび割れを引き起こすのか
強い層間接着を得るには、熱い溶融プラスチックを下の層に押し出し、その熱でしっかり融合させる必要があります。ところがファンの回転が速すぎると、新しい層が瞬時に冷却されてしまいます。この急速な固化により、下の層に十分に溶け込むことができません。結果として弱い接着しか得られず、後で熱収縮の力により簡単に剥がれてしまいます。
この問題を見分ける方法
環境による問題ほど目立たない場合もあります。以下の兆候があれば疑ってください:
- 見た目は綺麗で寸法も正確だが、構造的に非常に弱い。
- プリント中ではなく、完成後に室温まで冷めてからひび割れが現れる。
解決策: スライサーでファン速度を調整する
この問題はスライサーソフトのファン設定を変更することで解決できます。主に2つの方法があります:
- ファン速度を下げる: 寒い時期にPLAのような一般的なフィラメントを使う場合、必ずしも100%で回す必要はありません。30〜50%に下げてみてください。ディテールを保ちながら、層の強度も確保できます。
- 特定の素材ではファンをオフにする: ABS、ASA、ナイロンのように温度に敏感で反りやすい素材では、パーツ冷却ファンを完全にオフにするのが最適です。例外はブリッジや急なオーバーハングなどで、垂れを防ぐために必要な場合のみです。
原因#3: ノズル温度が低くて強い溶着ができていない
強い層間接着を得るには、フィラメントが十分に熱く、下の層と適切に融合できる必要があります。ノズル温度が低すぎると、最初から弱いプリントが形成され、簡単に割れてしまいます。
なぜ十分な熱が必要なのか
適切な層の接着には、押し出された高温のプラスチックが下層の表面をわずかに再溶融させ、強い溶着を作る必要があります。印刷温度が低すぎると、フィラメントは半固体の状態で押し出されます。熱エネルギーが不足し、下の層としっかり融合できません。その結果、層がただ重なっているだけの弱いプリントになってしまいます。
この問題を見分ける方法
最も顕著な兆候は、小さなモデルでも全体的に脆く、少しの力で層が剥がれてしまうことです。爪で層を剥がせる場合、印刷温度が原因の可能性が高いです。
解決策: ノズル温度を上げて溶着を強化する
この問題は簡単に修正でき、スライサーの温度設定で行います。
- 5℃刻みで温度を上げる: 小さなテストプリントを行いながら、ノズル温度を5℃ずつ上げます。層の接着が明らかに改善するポイントを探してください。
- 温度タワーをプリントする(推奨): フィラメントごとに最適温度を見つけるには「温度タワー」が最適です。異なる温度で高さごとにプリントされるキャリブレーションモデルで、実際に強度と外観を確認できます。
原因#4: 3Dプリンターがアンダーエクストルードしている
アンダーエクストルージョンとは、プリンターが十分なプラスチックを押し出せず、層が弱くなる状態です。材料不足により、温度ではなく単に物理的に不十分なために接着できず、プリント全体が脆くなります。
なぜアンダーエクストルージョンが弱い層を生むのか
強い接着には厚みのある溶融プラスチックのラインが必要です。しかし押し出し不足ではラインが薄く、隙間も生じます。これでは一体化した層を形成できず、根本的に弱いスポンジ状の構造になります。
アンダーエクストルージョンを見分ける方法
この症状はプリント全体に現れるのが特徴です。以下に注目してください:
- 割れはきれいな亀裂というより、スポンジ状または穴の多い分離に見える。
- 天面や壁にフィラメントラインの隙間が見える。
- 壁が薄い、表面が粗いなど仕上がりが悪い。
解決策: アンダーエクストルージョンを直す
正しい量を押し出せるように調整します。次のステップを行ってください:
- エクストルーダー(Eステップ)のキャリブレーション: 最も重要です。ソフトが100mm押し出すよう指示したとき、実際に100mm送られるように調整します。
- スライサーで流量を増やす: Eステップが正しければ、スライサーの「フロー率」や「押出倍率」を微調整します。100%→103%程度に上げるだけでも効果があります。
- ノズルの部分詰まりを確認: 突発的または断続的なアンダーエクストルージョンは部分的なノズル詰まりが原因のことが多いです。「コールドプル」や掃除針でクリーニングしましょう。
原因#5: フィラメントが湿気を吸っている
多くの3Dプリンターフィラメントは吸湿性があり、空気中の水分をスポンジのように吸収します。この湿ったフィラメントを使用すると、層間接着が損なわれ、パーツ全体が脆くなります。
なぜ湿ったフィラメントが脆いプリントを作るのか
湿気を含んだフィラメントがホットノズルに入ると、水が瞬時に蒸発して気泡を生じます。これによりプラスチック内に空洞ができ、層同士が接着する表面積が大幅に減ります。その結果、パーツ全体が層間だけでなく構造全体として脆くなります。
「湿った」フィラメントを見分ける方法
プリント中に以下の兆候が見られれば湿気が原因です:
- 音の手がかり: ノズルから「シューッ」「パチパチ」と水分が蒸発する音がする。
- 見た目の手がかり: 表面が滑らかでなく、ザラザラ・毛羽立ち・穴だらけになる。
解決策: フィラメントを乾燥させる
唯一の解決法は、印刷前にスプールを乾燥させることです。信頼できる方法は以下です:
- 専用のフィラメント乾燥機を使用する。
- 食品用のフードデハイドレーターを適切な温度に設定して使用する。
この工程は特にPETG、TPU、ABS、ナイロンにおいて重要です。これらは数時間で性能を損なうほどの水分を吸収します。
層間接着を強くするためにバランスを取ろう!
背の高いプリントでのひび割れは、冷却による上向きの力と層を繋ぎとめる接着力の戦いに尽きます。本ガイドの解決策はすべて、この戦いに勝つためのものです。環境、ファン速度、ノズル温度を制御することで収縮力を抑えつつ接着力