3Dプリント用フィラメントの乾燥方法

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3Dプリント用フィラメントの乾燥方法

湿ったフィラメントで3Dプリントを行うと、印刷品質の低下からプリンターへのダメージに至るまで、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。多くのフィラメントは空気中の湿気を吸収しやすく、それによってプリント性能が大きく左右されます。印刷中にブツブツと気泡が出たり、糸引きが増えたり、層と層の接着が弱くなるなどの不具合が起こることがあります。こうした問題は、簡単なはずのプロジェクトを一気にストレスの原因に変えてしまいます。

しかし幸いなことに、フィラメントを効率的に乾燥させる方法はいくつも存在します。この記事では、乾燥機を使用する方法から、自作の簡易乾燥装置まで、さまざまな対策を紹介し、フィラメントの湿気対策と印刷品質の向上につなげる方法をご紹介します。

3Dプリントにおける「乾燥フィラメント」の重要性

湿気はプリント品質の大敵

湿ったフィラメントを加熱すると、内部の水分が蒸気に変わり、以下のようなトラブルが発生します:

  • 樹脂内部に気泡が発生する
  • 押出量が安定せず、レイヤーがガタつく
  • 「パチパチ」「ジュッ」という音が出る

これらの症状が見られる場合は、フィラメントの湿気が原因である可能性が高いです。

QIDIフィラメント2色のスプール(ブルーとオレンジ)

なぜフィラメントは湿るのか

ほとんどのフィラメントは「吸湿性」を持っており、空気中の水分がフィラメント内部のポリマー鎖の隙間に入り込むことで湿ってしまいます。湿気の吸収速度は、フィラメントの種類や周囲の湿度によって大きく異なります。

湿ったフィラメントの見分け方:4つのサイン

  • ツヤがなくなる:乾燥したフィラメントと比べて、表面の光沢が鈍くなります。
  • 折れやすい:湿気を吸ったフィラメントは脆くなり、簡単に折れてしまいます。
  • 印刷不良:糸引き、層の接着不良、気泡などが起きやすくなります。
  • 異音がする:印刷中に「パチパチ」や「ジュッ」といった音がすることがあります。

こうした症状を見逃さず、早めに湿気対策を行うことで、フィラメントや時間の無駄を防ぐことができます。

素材ごとの吸湿性の違い

すべての3Dプリンターフィラメントが同じように湿気に弱いわけではありません。種類ごとの性質を理解し、保管・使用方法を変えることが重要です。

特に湿気を吸いやすい:ナイロン・TPU

ナイロンやTPUは非常に吸湿性が高く、たった数時間の放置でも水分を吸収してしまいます。ナイロンは強度と柔軟性に優れた素材ですが、湿気を最大10%も吸収することがあり、印刷中にバブル・糸引き・層割れなど深刻な問題を引き起こすことがあります。

TPUも同様に湿気に弱く、乾燥していない状態では表面にムラが出たり、柔軟性が不均一になることがあります。

中程度の吸湿性:PETG・PLA

PETGはナイロンやTPUほどではないものの、数週間の放置で湿気の影響が現れやすくなります。PLAは比較的扱いやすい素材ですが、長期間湿度の高い環境に放置すると吸湿してしまいます。

比較的湿気に強い:ABS

ABSは吸湿性が低く、他の素材より湿気に強いとされています。ただし、高湿度の環境に長期間放置すると、やはり湿気を吸収して品質に影響が出る場合があります。

QIDIのPEEKフィラメント

対策その1:市販のフィラメント乾燥機を使う

フィラメント乾燥機の仕組み

市販のフィラメント乾燥機は、温度と空気循環を制御することでフィラメント内部の湿気を除去します。ヒーターとファンを備えた密閉されたチャンバー内で、スプール全体を加熱・乾燥させる仕組みです。フィラメント内の水分が蒸発し、空気の流れによって外へ排出されます。

素材ごとの適正乾燥温度と時間

フィラメントの種類によって最適な乾燥条件は異なります。以下は一般的な目安です:

フィラメント素材 推奨温度(°C/°F) 乾燥時間(時間)
PLA 45〜50 / 113〜122 4〜6
PETG 65〜70 / 149〜158 4〜6
ナイロン 70〜80 / 158〜176 8〜12
TPU 40〜50 / 104〜122 4〜6
ABS 60〜70 / 140〜158 4〜6

上記は一般的な目安です。フィラメントの種類やメーカーによって最適な温度や時間は異なる場合がありますので、必ず製品ごとの仕様をご確認ください。

方法②:オーブンでのフィラメント乾燥

オーブンの選び方

温度調節が正確にできるオーブンを使用してください。コンベクション(対流)オーブンは、内部の空気循環により均一な乾燥が可能なためおすすめです。食品と兼用せず、専用のものを用意すると安心です。

乾燥手順

使用するフィラメントに応じて、事前にオーブンを適温に予熱します。

  • フィラメントをクッキングシートでゆるく包む、または清潔なトレイの上に置きます。
  • 複数のスプールが接触しないように配置します。
  • 設定時間にタイマーをセットします。
  • 過熱や変形がないか、途中で様子を確認してください。
  • 乾燥後はオーブン内で自然に冷却させてから取り出します。
  • 冷却後は乾燥剤と一緒に密閉容器で保管します。

オーブンによる乾燥は非常に効果的ですが、温度管理に十分注意が必要です。必ず素材に合った温度で実施してください。

方法③:食品用乾燥機(フードドライヤー)での乾燥

乾燥機の改造

食品トレイを取り外し、フィラメント用のスプールホルダーを設置します。空気がフィラメントの周囲を均等に通るよう、スプール間には十分なスペースを確保してください。耐熱素材で自作ホルダーを作るとさらに効果的です。

温度と時間の設定

  • PLA:45〜50°Cで4〜6時間
  • PETG:65°C前後で4〜6時間
  • ナイロン:70°C以上で8〜12時間以上

状態によっては時間を短めに設定して様子を見ながら調整しましょう。メーカーのガイドラインに従うのが最も安全です。

メリットとデメリット

食品用乾燥機は安価で操作も簡単、温和な熱でフィラメント全体を均一に乾燥できます。一方で温度調節範囲が限られる機種も多く、すべての素材に対応できない場合があります。また、大型スプールが入らないことや、食品との共用による衛生リスクも考慮が必要です。

方法④:DIY乾燥ボックスでの対策

乾燥チャンバーを自作する

密閉可能な容器を使用し、底に乾燥剤(シリカゲルなど)を敷き詰め、小さなメッシュ台の上にフィラメントを設置します。容器を密閉し、風通しの良い冷暗所に保管してください。乾燥に時間はかかりますが、すべての素材に使える安全な方法です。

シリカゲルを使った乾燥法

スプールをチャック付きの密閉袋に入れ、複数のシリカゲルパックを同封します。できるだけ空気を抜いて密封してください。これは軽度の湿気除去や、すでに乾燥済みのフィラメントの維持に適しています。シリカゲルは定期的に交換または再生が必要です。

自作ヒートボックスの構築

木箱や耐熱プラスチック容器を使い、内部に低出力の電球やヒートパッドを設置し、温度計を使って温度管理を行います。フィラメントは棚の上に配置し、加熱部から距離を保ちます。温度を過熱しないよう、こまめな管理が必要です。

各素材に適したフィラメント乾燥ガイド

PLA:低温・短時間での乾燥

PLAは40〜45℃で4〜6時間乾燥させるのが理想です。PLAは他のフィラメントと比べると吸湿性は低めですが、乾燥によって品質が向上する場合があります。50℃を超えると変形のリスクがあるため、必ず低温で管理してください。フードドライヤーや低温対応のオーブンが適しています。

PETG:中温・中時間での乾燥

PETGは65℃で4〜6時間乾燥させます。PLAより吸湿しやすく、やや高めの温度での乾燥が必要です。ただし、70℃を超えないように注意してください。安定した温度制御が可能なフィラメント乾燥機またはオーブンを使用するのが最も効果的です。

ナイロン:高温・長時間の乾燥が必要

ナイロンは70〜80℃で12〜24時間の乾燥が推奨されます。非常に吸湿しやすいため、徹底的な乾燥が求められます。ポリカーボネートなどの他の高吸湿性素材も同様の乾燥条件が必要です。専用のフィラメント乾燥機や温度管理を徹底できるオーブンを使用してください。

柔軟素材(TPUなど):低温・長時間で乾燥

TPUなどの柔軟フィラメントは、40〜50℃で4〜6時間の乾燥が適しています。熱によって変形しやすいため、高温での乾燥は避けてください。低温で時間をかける方法が安全で効果的です。フードドライヤーや低温オーブンの使用がおすすめです。

乾燥完了の判断方法:3つのチェックポイント

① フィラメント表面の観察

乾燥済みのフィラメントは、表面がマットで均一な色・質感になっていることが多いです。気泡や光沢のばらつきが見られる場合は、まだ水分を含んでいる可能性があります。なお、見た目だけでは正確に判断できないこともあります。

② 重量の変化を測定

乾燥前後でスプールの重量を測定しましょう。0.2〜0.5%程度の重量減少があれば、充分な乾燥ができたと判断できます。正確な測定には精密なデジタルスケールが必要です。特に小巻のスプールでは数グラムの差が重要になります。

③ テストプリントで確認

乾燥後に小さなテストプリントを行い、品質の改善を確認します。ストリングの減少、表面の滑らかさ、層の密着性などが向上していれば、乾燥の効果が出ていると判断できます。もし問題が残る場合は、追加の乾燥が必要です。

3D プリント フィラメントの 2 つのロールはそれぞれオレンジと茶色です。

印刷中の吸湿を防ぐための対策

① ドライボックスを使用する

印刷中はフィラメントをドライボックスに入れて保管しましょう。乾燥剤を用いたパッシブ方式や電気で除湿するアクティブ方式があります。多くのドライボックスには、フィラメントを直接プリンターへ供給できる構造があります。簡易的には、密閉容器に乾燥剤とフィラメントを入れ、出力用の穴を開けて自作することも可能です。

② 作業環境の湿度をコントロールする

印刷環境の湿度は常に50%以下に保つのが理想です。除湿機を使ったり、ナイロンやTPUなど高吸湿性素材を使用する場合は、プリンター全体をエンクロージャーで覆い、密閉された空間で管理するのも有効です。

③ 定期的なフィラメントチェックを行う

フィラメントの状態は定期的に確認してください。色味や質感の変化、折れやすさなどが劣化の兆候です。スプールの重量を定期的に記録して、吸湿の有無を判断するのも良い方法です。また、古いスプールから使うようローテーション管理を行い、乾燥剤は数ヶ月ごとに交換または再生してください。

乾燥したフィラメントで高品質な3Dプリントを!

フィラメントの乾燥と適切な保管は、高品質な3Dプリントのために非常に重要です。市販の乾燥機やオーブン、フードドライヤー、自作の乾燥ボックスなど、方法はさまざまですが、共通して大切なのは「湿気を寄せ付けないこと」。日常的にチェックと管理を行うことで、再吸湿を防ぎ、フィラメントの寿命を延ばし、トラブルの少ない快適な3Dプリント環境を維持することができます。ぜひ、乾燥を習慣化し、ベストな仕上がりを手に入れましょう!

目次

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